大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 昭和61年(ワ)277号 判決 1987年11月27日

原告

池田金蔵

被告

千葉グリーンセールス株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金六九〇四万三六五五円並びに内金六二九五万五四三五円に対する昭和五八年八月九日から支払済まで、内金六〇〇万円に対する昭和六一年三月一二日から支払済まで及び内金八万八二二〇円に対する昭和六一年一一月二五日から支払済までいずれも年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、連帯して金一億六一二七万八一九三円並びに内金一億五三八八万九九七三円に対する昭和五八年八月九日から支払い済まで、内金七三〇万円に対する昭和六一年三月一二日から支払済まで、及び内金八万八二二〇円に対する昭和六一年一一月二五日から支払済まで、いずれも年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五八年八月九日午後二時五五分頃

(二) 場所 千葉市仁戸名町七〇五番地

(三) 加害車輛 千葉四四と二九九四

(四) 加害運転手 被告嶋田栄吉郎(以下「被告嶋田」という。)

(五) 被害者 原告

(六) 事故の態様 原告は、右日時頃、前記(二)の場所において、千葉市街方面から大網方面に向けて自転車にて走行中、同番地先の信号機のある交差点に差しかかり、青信号に従つて同交差点に侵入して直進しようとしたところ、被告千葉グリーンセールス株式会社(以下「被告会社」という。)の下請作業員として被告会社の業務に従事していた被告嶋田は、被告会社所有の普通貨物自動車(千葉四四と二九九四、以下「本件事車輌」という。)を大網方面から千葉市街方面に向かつて運転進行中、同交差点に差しかかり、川戸町方面に右折しようとして、自己の運転する車体を原告に衝突せしめた。

(右事故を以下「本件事故」という。)

2  責任原因

(一) 被告嶋田の責任

右交通事故は被告嶋田の過失によるものである。即ち被告嶋田としては、交差点で右折する場合において、前方を十分注視し、当該交差点において直進しようとする車輌等があるかを確認し、直進車輌等があるときはその進行を妨害してはならないにもかかわらず、この注意義務を怠り、前方を十分確認することなく慢然と右折を開始した為、原告を発見するのが遅れ、反対方向から直進してきた原告に自己の運転する自動車の車体を衝突せしめたものである。

よつて、被告嶋田には民法七〇九条に基づく責任が存する。

(二) 被告会社の責任

被告会社は本件車輌を保有し、それを運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条に基づく責任が存するものである。

3  原告の傷害と治療経過

(一) 原告は本件事故により、開放性頭蓋陥没骨折、脳挫傷、頸部挫創、頸部捻挫の傷害を受け、千葉県救急医療センターに昭和五八年八月九日から同月三一日までの二三日間入院した。

(二) その後、右病院を移転し、川崎製鉄健康保険組合千葉病院に、昭和五八年九月二日より現在に至るまで、通院治療を続けているものである。

(三) 現在の症状は、嘔気、嘔吐、痙攣の発作が継続して発生するため、抗痙攣剤等を服用し、通院並びに自宅療養を継続している。医師の診断においても勤務することは不可能と診断されているものである。

4  損害

(一) 休業損害 金二五一八万六九一三円

原告は競輪選手を職業とし、事故の前年度は必要経費を控除した額で年額九七九万〇四四〇円であつたが、本件交通事故後、今日に至るまで、前述のとおり、入通院及び後遺障害に悩まされ、競輪選手として稼働し得ない状態である。原告は、これによつて金二五一八万六九一三円の休業損害を蒙つた。その算出は次のとおりである。

九七九万〇四四〇円(五七年度所得)×九三九(五八年八月九日~六一年三月五日)/三六五=二五一八万六九一三円

尚、五七年度所得については、原告は青色申告をしており、その所得金額は金六六五万一七七一円であるところ、右金額には青色申告の為、専従者たる老母の専従者給与分として金二一〇万円、及び車の原価償却費として金一〇三万八六六九円がそれぞれ控除されているものであり、右控除は、原告の所得金額を算出するには不要のものであり、従つて、右控除金額を加算してその所得金額としなければならない。そうすると、原告の五七年度分所得は、前述のとおり金九七九万〇四四〇円となる。

(二) 後遺症による逸失利益 金一億二六六四万四六一八円

原告は、退院後現在でも通院加療中であるが、興奮時や運動時に嘔気、嘔吐があり、また頸部痛もあり、更に時々頭がボーとする痙攣発作と思われる発作があつて、現在全く労務に服することができない状態である。この後遺障害等級は五級に相当し労働能力喪失率は七九パーセント以上と認められる。原告は、現在三二歳であり、労働喪失期間は三五年間であつて、これに対応するライプニツツ係数は一六・三七四一である。年収は前述のとおり金九七九万〇四四〇円であるから、後遺症による逸失利益は金一億二六六四万四六一八円である。その算出は次のとおりである。

九七九万〇四四〇円×〇・七九×一六・三七四一=一億二六六四万四六一八円

(三) 慰謝料 金一二五一万円

原告は前述のとおり、二三日間入院し、その後現在に至るまで通院並びに自宅療養を余儀なくされ、職業である競輪選手として復帰することは全く不可能な状態であるのみならず、現在に至るも全く労務に服することができない状態が続いており、その後遺症は五級に相当するものと思料されるものである。

以上の点を考慮すると、慰謝料は金一二五一万円を相当とする(入通院分慰謝料金一五一万円、後遺症慰謝料金一一〇〇万円)。

(四) 医療費

原告は、本件事故以来今日まで、依然後遺症の治療を受けており、今後も終生活療を受け続けなければならない。

この医療費については、加害者側保険会社より支払われていたものの、本件提訴を理由に保険会社は支払いを中止してしまつた。その為、昭和六〇年一〇月二九日以降今日まで、原告が自ら負担している。この中、昭和六〇年一〇月二九日から同六一年一一月二五日までの医療費の合計は金八万八二二〇円である。

(五) 入通院雑費 金四万八〇〇〇円

入院分 一〇〇〇円×二三日=二万三〇〇〇円

通院分 二五〇円×一〇〇日=二万五〇〇〇円

(六) 近親者付添費用 金九万二〇〇〇円

四〇〇〇円×二三日 九万二〇〇〇円

(七) 通院交通費 金一〇万円

(八) 医師への謝礼 金五万円

(九) 弁護士費用 金七三〇万円

原告は、本件訴訟を原告代理人に委任し、少なくとも判決額の一〇パーセント以上を着手金並びに報酬として支払うことを約した。従つて、原告が弁護士費用として支払うべき金員の内、少なくとも右金額を被告らに負担させるのが相当である。

5  弁済受領額

原告は、加害者側保険会社より金一〇七四万一五五八円也を受領している。よつてこの金額を前記損害額より控除する。

よつて、原告は被告嶋田に対しては不法行為による損害賠償請求権に基づき、また被告会社に対しては自動車損害賠償保障法三条による損害賠償請求権に基づき、連帯して金一億六一二七万八一九三円並びにこの内金一億五三八八万九九七三円に対する昭和五八年八月九日から支払済まで、内金七三〇万円に対する訴状送達の日の翌日である昭和六一年三月一二日から支払済まで、及び内金八万八二二〇円に対する昭和六一年一一月二五日から支払済まで、いずれも民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実はすべて認める。

2  請求原因2(一)の事実は否認ないし争う。

3  請求原因2(二)の事実については、被告会社が本件車輌を所有していることは認めるが、その余の主張は争う。

4  請求原因3の事実のうち、(一)及び(二)は認め、(三)は知らない。

5  請求原因4についてはすべて争う。なお鑑定人寺門敬夫の鑑定結果は簡略に過ぎ、本件の適切な資料たり得ない。

6  請求原因5は認める。

三  抗弁

本件交差点において原告も徐行せず時速約三〇キロメートルのスピードで進入し、すでに右折を開始していた本件車輌に衝突したものであつて原告の過失は二割と認められる。

四  抗弁に対する認否

争う。原告にはなんらの過失もない。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実はすべて当事者間に争いがない。

そこで請求原因2(責任原因)について検討する。

二  被告嶋田の責任について

いずれも成立に争いのない甲第二号証、乙第七号証の一ないし六及び乙第八号証並びにいずれも原本の存在と成立に争いのない乙第九、第一〇、第一一号証の一ないし一〇、第一二及び第一三号証並びに原告及び被告嶋田の各本人尋問の結果並びに前記争いのない事実によれば、被告嶋田は昭和五八年八月九日午後二時五五分頃、千葉市仁戸名町七〇五番地先路上において、本件車輌を運転し、大網方面から千葉市街方面に進行中、赤信号によつて交差点手前で停車したが、その際自車の手前には自動車教習所の車が停車しており、対向車線には白い軽自動車が停車しているのを認め、信号が青にかわり右教習所の車が直進し、対向車も直進し、自己は右交差点を川戸町方面に右折しようとして時速約一五キロメートルで右折を開始し、右交差点の川戸町方面にある横断歩道の少し手前にさしかかつたところ、折から対向車線を千葉市街方面から大網方面に向けて進行し、交差点を直進しようとした原告運転の自転車を自車の左約四ないし五メートルのところに発見し、慌てて急制動の措置をとつたが間にあわず、自車の左前部のバツクミラーに原告を衝突せしめた、という事実が認められる。

そして、前記甲第二号証及び同乙第七号証の一並びに被告嶋田の本人尋問の結果によれば、被告嶋田の運転席における目の位置は、地上から一メートル六〇ないし同七〇センチメートルと高く、また見通しもよい状態であつたことが認められ、被告嶋田は原告の運転する自転車を十分前もつて発見しえたということができる。してみれば、被告嶋田には右折する際に対向車線を十分に注意して直進してくる車輌の有無を確認せねばならない注意義務があるのにこれを怠り、原告の自転車の発見が遅れたという点に過失が認められる。

三  被告会社の責任について

本件車輌が事故当時被告会社の所有であつたことは当事者間に争いがない。被告会社において、運行の支配の喪失につき、立証しないので、被告会社には自動車損害賠償保障法三条による運行供用者責任が存するといえる。

四  損害

1  傷害、治療経過

原告が本件事故により開放性頭蓋陥没骨折、脳挫傷、頸部挫創、頸部捻挫の傷害を受け、千葉県救急医療センターに昭和五八年八月九日から同月三一日までの二三日間入院したこと、その後右病院を移転し、川崎製鉄健康保険組合千葉病院に昭和五八年九月二日から現在に至るまで通院治療を続けていることは当事者間に争いがない。

2  休業損害

いずれも成立に争いのない甲第一一号証の一ないし三によれば、原告の昭和五七年度の所得金額は金六六五万一七七一円であることが認められるが、控除されている老母の専従者給与分金二一〇万円及び車の減価償却費金一〇三万八六六九円は実収入算定のために加算されるべきであるから、これを加えると昭和五七年度の実収入は合計金九七九万〇四四〇円と認められる。

次に、原告が右収入をあと何年確保しえたかについて検討するに、成立に争いのない乙第二号証によれば、昭和六〇年六月においては級及び班の分類上従来のA級B級の二級制(A級が一ないし五班、B級が一及び二班に分かれる。以下「旧A級」、「旧B級」という。)にかわり、S級A級B級の三級制(S級が一ないし三班、A級が一ないし四班、B級が一及び二班に分かれる。以下「S級」、「新A級」、「新B級」という。)となつていることが認められ、また原告本人尋問の結果によれば本件事故当時もA級の上にS級が存在していることが認められるから、原告が本件事故当時A級一班にいたからといつてこれをもつて最高位に位置していたということはできない。成立に争いのない乙第一号証の四(後記別表一)によると、新A級一班に相当すると思われる旧A級二班及び同三班の昭和五五年から同五七年にかけての平均年齢は二八歳から三〇歳であることが認められるから、本件事故当時三〇歳であつた原告が新A級一班の選手として稼働しうるのは、あと五年ほどであると考えるのが相当である。

そうだとすると事故の当日である昭和五八年八月九日から症状固定日である昭和六〇年九月一〇日(成立に争いのない甲第一〇号証によりこれを認める。)までの七六四日間の休業損害額は左の計算のとおり金二〇四九万二八六六円である(円未満切り捨て。以下同じ。)。

979万0440円/365×764=2049万2865円

3  後遺症による逸失利益

(一)  後遺症

鑑定人寺門敬夫(以下「寺門」という。)の鑑定の結果及び同人の証言によれば、原告は昭和六一年六月一九日、寺門の勤務する伊豆長岡病院に来院し、同人の診察を受けたこと、その際脳の断層写真(いわゆるC・Tスキヤン)で検査したところ、原告の脳の右側頭部の三分の一以上及び右前頭葉の若干の部分に脳挫傷、脳挫滅(ローデンシテイ)が認められ、それは頭部に対する外部からの強い打撃によつて発生したものであると認められたこと、コーヒー、煙草、石けんの臭いで嗅覚の検査を行つたところ全く嗅覚がなく嗅覚脱の状態であり、それは頭部に対する外部からの強度の衝撃のため頭部に存する嗅覚神経が切れてしまつたことによる可能性が強いこと、ハンドドロツプテスト(前方に手を真すぐに出させて目をつぶらせてその状態をみる検査)をしたところ原告の左手は回内(前腕をさし出して掌を下方に向けるように前腕を捩る運動)だけではなく、左手が下がる状態を示し、さらに片脚起立の検査では左足の起立が不確実であることを示したことから左半身麻痺があり、これも前記脳挫傷に起因していると判断されたこと、原告本人は抗痙攣剤を服用していても月に一度はてんかんによる痙攣発作をおこすと申述しておりその他頭痛の訴え、会話の状態から前記衝撃による脳挫傷、脳挫滅を原因とする非可逆的な外傷性てんかんであると判断されたこと、さらに触手及びピンで触る検査によつて原告は左半身知覚傷害であり、これも前記頭部の衝撃によつて生じたものと判断されたこと、仕事についても自分の判断を要せず、人の指導の下に与えられた仕事をこなす程度の軽作業しかできないと判断されたこと以上の事実が認められる。さらに成立に争いのない甲第一〇号証によれば、原告は昭和六〇年九月一〇日に川崎製鉄健康保険組合千葉病院に診察を受けに行つたこと、その際、主訴又は自覚症状として興奮時、運動時における嘔気、嘔吐、右の耳鳴り、頸部痛及び頭がボーとする発作、他覚症状及び検査結果として脳波検査で両側前頭部に徐波、棘波、CTスキヤンで右側頭部に低吸収域がそれぞれ認められた。

なお、被告らは寺門の鑑定が簡略にすぎると主張するが、同人の証人尋問によつて検査の方法、結果について詳細に補充しているとみられるので右主張は相当でないまた被告らは寺門の検査の方法について問題があると主張するが、検査の方法について必ず履践しなければならないという一定の方法があるということは全証拠によつても認められないのであり、寺門のなした検査が杜撰であるということはできない。

以上の事実によれば、原告の後遺症障害は、外傷性てんかん、嗅覚脱失、左半身麻痺、左半身知覚障害であると認められる。

(二)  後遺障害等級

前記(一)の事実によれば、原告の後遺障害等級は以下のとおりである。まず、外傷性てんかんについては成立に争いのない乙第五号証の四によれば、十分な治療にかかわらず一か月に一回以上意識障害を伴う発作がある場合及び就業可能な職種が著しく制限される場合には、後遺障害等級が七級であることが認められるところ、前記事実によると原告のてんかんの後遺障害等級は七級と認定しうる。さらに嗅覚脱については、いずれも成立に争いのない甲第一四号証及び乙第五号証の三によれば後遺障害等級一二級に該当し、左半身麻痺については前記甲第一四号証によれば一二級に該当することが認められる。

以上によれば原告の後遺障害等級はこれらを併合して第六級(自動車損害賠償保障法施行令別表7(a)による。)に相当し、労働能力喪失率は六七パーセントであると考えられる。

(三)  回復可能性

前記(一)の事実によれば原告の後遺症は脳挫滅、脳挫傷に起因することが認められ、証人寺門の証言によれば、右脳挫滅、脳挫傷は回復が不可能であることが認められるのであつて以上のことからすると原告の後遺症は生涯にわたつて残ると考えられる。

(四)  逸失利益額

(1) 稼働可能年数

本件事故当時三〇歳であつた原告が、新A級一班で稼働しうるのが三五歳ぐらいまでであると考えるべきこと前述のとおりであり、その後については、別表一によると旧A級五班の平均年齢は三六歳ないし三八歳であることが認められることからして原告は四〇歳程度まで旧A級五班において稼働可能と考えられる。またそうだとすると四一歳以降については、旧B級選手として稼働するものと考えるのが相当ということとなるが、原告本人尋問の結果によれば六二歳の現役の競輪選手がいることが認められるから。原告も六二歳まで稼働可能と考えるのが相当である。

(2) 所得率

所得率については、成立に争いのない乙第一号証の一によれば、原告の昭和五七年度における取得賞金額は金一六三三万三〇〇〇円であることが認められ、前記実際の所得金額が金九七九万〇四四〇円であるから、原告の昭和五七年度の所得率は左の計算のとおり五九・九四パーセントである(以下、原告の所得率についてはこの数字を用いる。)。

979万0440円÷1633万3000円=0.5994

(3) 計算

(ア) 昭和六〇年九月一一日(原告三二歳)から三年間前記原告の昭和五七年度の実所得金額金九七九万〇四四〇円に労働能力喪失率〇・六七を乗じ、中間利息を控除するため、ライプニツツ方式による係数二・七二三二を乗じて計算すると、左のように金一七八六万三〇八八円で右期間の逸失利益である。

979万0440円×0.67×2.7232=1786万3088円

(イ) 原告三六歳から四〇歳

成立に争いのない乙第一号証の三(後記別表二)によれば旧A級五班の昭和五五年から同五七年の取得賞金額はそれぞれ金六五六万五〇〇〇円、金七二〇万三〇〇〇円、金七五三万四〇〇〇円であることが認められ、その平均額は金七一〇万〇六六六円である。

右金額に所得率、労働能力喪失率及びライプニツツ係数を乗じて計算すると左のように金一〇六六万五〇三三円が右期間の逸失利益である。

710万0666円×0.5994×0.67×(6.4632-2.7232)=1066万5033円

(ウ) 原告四一歳から六二歳

別表二により旧B級一班及び同二班の昭和五五年から同五七年までの平均取得賞金額を計算すると左のとおり金四二七万六五〇〇円である。

右金額に所得率、労働能力喪失率及びライプニツツ係数を乗じて計算すると左のように金一六〇三万九八〇一円が右期間の逸失利益である。

427万6500円×0.5994×0.67(15.8026-6.4632)=1603万9801円

以上(ア)ないし(ウ)を合計すると、原告の後遺症による逸失利益は合計金四四五六万七九二二円である。

1786万3088円+1066万5033円+1603万9801円=4456万7922円

4  慰謝料

前記のとおり、原告が本件事故による傷害のため二三日間入院したこと、原告の後遺障害等級が第六級であること及び原告本人尋問の結果によれば昭和五八年八月三一日退院後も川崎製鉄健康保険組合千葉病院に同年九月二から現在(口頭弁論終結時である昭和六二年七月六日)まで月に一回の定期検査及び半年に一回の精密検査のために通院していることが認められる。以上の事実によれば慰謝料は左のとおり金八八〇万円であるとみるのが相当である。

(一)  後遺症分 金八〇〇万円

(二)  入通院分 金八〇万円

合計金八八〇万円

5  医療費

いずれも成立に争いのない甲第一六号証の一ないし一三及び弁論の全趣旨によつて真正に成立したと認められる甲第一五号証によれば原告が加害者側保険会社から支払を受けていない医療費は昭和六〇年一〇月二九日から同六一年一一月二五日までで合計金八万八二二〇円であることが認められる。

6  入通院雑費

原告が二三日間入院したこと及び、原告がひき続き通院していることは前記のとおりであり、弁論の全趣旨及び経験則によれば、入通院雑費として金四万八〇〇〇円を認めるのが相当である。

7  近親者付添費用

原告本人尋問の結果によれば入院の間、原告の母親が原告に付き添つていたことが認められるのであり、一日あたり金四〇〇〇円で合計金九万二〇〇〇円の近親者付添費用を認めるのが相当である。

8  通院交通費、医師への謝礼

弁論の全趣旨及び経験則によれば合計金八万円と認めるのが相当である。

五  過失相殺

前記のように本件事故は被告嶋田が右折するに際し対向車線を十分に確認しなかつたことに起因するものではあるが、他方原告の方の過失について検討するに、被告嶋田及び原告の各本人尋問の結果によれば原告は先に被告嶋田の運転する本件車輌を発見し、急制動の措置をしたが蛇行してフラフラしていたこと、本件車輌の左前部バツクミラーが折損するほどの衝撃であつたことが認められ、以上のことによれば、原告は自転車としては相当速い速度(少くとも被告嶋田の車輌の時速一五キロメートル以上の速度)で走行していたと推認しうるし、前記甲第二号証、乙第一一号証の一及び四、乙第一二号証及び被告嶋田本人尋問の結果によれば、被告嶋田は信号が青になつて発進した後間もなく右折の方向指示器を作動させ時速約一五キロメートルの速度で右折を開始したことが認められるのであり、以上の事実によれば、原告としても本件事故の生じた交差点にはいる以前に被告嶋田が右折を開始しあるいは少なくとも右折の方向指示器が示されているのを発見しえたのであり、それにもかかわらず、直進通過しようとしたものと認められるのであつて、原告の過失割合は一割五分とみるのが相当である。そうだとすると原告が被告らに請求しうる損害額は一割五分を減じた金六三〇四万三六五五円である。

六  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告は被告らが損害賠償金を任意に履行しなかつたので、やむなく弁護士たる本件原告代理人に本訴の提起と追行を委任し、その手数料及び報酬の支払を約したことが認められる。

そして本件事故の内容、審理経過、認容額に照らすと、原告が被告らに負担せしめ得る弁護士費用相当分は金六〇〇万円であると認められる。

七  結論

以上の事実によれば、本訴請求は金六九〇四万三六五五円並びに内金六二九五万五四三五円に対する本件不法行為の日である昭和五八年八月九日から支払済まで、内金六〇〇万円に対する訴状送達の日の翌日である昭和六一年三月一二日から支払済まで及び内金八万八二二〇円に対する本件不法行為の日の後である昭和六一年一一月二五日から支払済までいずれも民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 荒井真治 手島徹 澤野芳夫)

別表1

(昭和55年~57年級班別平均年齢)

(昭和55年~57年平均稼働年数)

別表2

(昭和55年~57年級班別賞金取得状況)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例